研究概要 |
【目的】肝線維化を制御し肝硬変への進展を予防する治療法の開発が望まれている。肝線維化は肝細胞傷害や組織の炎症等に伴って活性化された肝星細胞(HSC)から分泌される様々なコラーゲン分子(I,II,III,VI型)の間質への沈着によって起こる。現在まで、HSCの活性化を特異的に抑制する方法や多種類存在するコラーゲン分子の合成を同時に抑制する有効な手段はない。HSP47は様々なタイプのコラーゲンの合成過程で共通する細胞内輸送や分子成熟化に必須の分子シャペロンでありHSCにおいてHSP47の機能を特異的に制御できれば、肝線維化を抑制できる可能性が考えられる。そこで申請者らは、in vivoにおいてHSCを標的としHSP47の合成を特異的に抑制する試みとして、Vitamin Aを結合させたリポソーム内にHSP47 siRNAを封入したVA-Lip-HSP47siRNAを作製し、それをラット肝硬変モデルに投与して肝線維化を抑制できるか否かについて検討した。【方法】HSP47siRNAは、rat gp46(ヒトHSP47ホモログ)に対する21塩基を選び作製した。HSP47の発現はラット線維芽細胞にHSP47siRNAを導入しWestern blotで検討、コラーゲン合成はこれを^3H-proline存在下に培養し分泌された蛋白量とcollagenaseで分解された蛋白量の比から算定した。In vivo導入の検討は、FITC標識HSP47siRNAにVitAを混合したエマルジョンを作製し(VA-Lip-HSP47siRNA-FITC)、ラット門脈内へ投与後、肝組織の蛍光標識抗desmin抗体染色とFITCの発現で検討した。DMNによるラット肝硬変モデルを作製しVA-Lip-HSP47siRNAを門注ならびに静注後、肝線維化量をNIHimageで定量化するとともにそれらの生存曲線も検討した。【結果】HSP47siRNA投与にてHSP47の蛋白発現は約90%抑制されコラーゲン合成率はcontrol群に比べ約60%抑制された。HSP47siRNA-FITC単独投与群ではラット肝星細胞での発現は認めなかったが、VA-Lip-HSP47siRNAを投与したところ星細胞特異的な発現を認めた。ラット肝硬変モデルにVA-Lip-HSP47siRNAを静注したところcontrol群に比べ線維化は有意に抑制され、用量依存性に生存曲線の延長を認め150ug投与群では全例が生存した。【結論】VA-Lip-HSP47siRNAは、HSCにおけるHSP47合成を特異的に阻害しコラーゲン産生を抑制する、肝線維化の新たな分子標的治療剤となりうる可能性が考えられた。
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