B型肝炎ウイルス(HBV)感染者は150万人以上存在すると推定されており、慢性肝炎、肝硬変、肝癌の主要原因のひとつとなっている。日本ではほぼすべての症例が幼小児期からの持続感染であるため、抗ウイルス剤を投与してもウイルスの抑制は可能であるが、完全排除は不可能であるのが実態である。したがってラミブジンなどの抗ウイルス剤の使用は長期にわたることになり、必然的に薬剤耐性化変異が出現することが最大の問題となる。そこで本研究ではまずラミブジンを2年以上投与された67例について、その背景因子とラミブジン治療効果および耐性株出現との関連について検討した。治療有効性と関連する有意な因子としては、治療前のALT値が200IU/L以上であること、そしてHBe抗原が陰性であることが多変量解析で示されたが、年齢、ウイルス量、Pre-C領域の変異、Core promoter領域の変異には影響されなかった。一方、薬剤耐性化の因子としては、年齢、ALT値、ウイルス量、Pre-C領域の変異、Core promoter領域の変異などには有意な関連はみられず、HBV genotype Cであることが唯一薬剤耐性化に有意に関連していた。つまり、HBV genotype C型のウイルスにおいては、過去の報告でも予後が不良で、セロコンバージョンしにくく、治療の反応性も低いといわれているが、今回の検討では薬剤耐性化変異の出現頻度も高いことが示された。さらに、ラミブジン以降、最近新しく認可されたアデフォビル、エンテカビルなどの核酸アナログ製剤も使われるようになり、薬剤の選択の幅が広がったが、これらの薬剤でもウイルスの逆転写酵素のそれぞれ異なった部位に特異的な変異が起きることが示された。さらに、これらの薬剤に対する耐性変異とウイルス側のHBV genotypeの違いが、その変異の入りやすさとどのような関連があるかを、今後検討を進めていく予定である。
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