研究概要 |
ADAMTS13はメタロプロテアーゼであり、超高分子量von Willebrand factor (VWF)マルチマー(UL-WFM)を分解する。本酵素が低下した病態では、UL一VWFMが増加し血小板血栓形成傾向となる為、諸臓器の微小循環障害が惹起される。昨年、本酵素が肝星細胞で産生されることを見い出し(Blood,2005)、各種肝疾患における本酵素の動態解析を試みている。特に多臓器不全(MOF)を伴う重症アルコール性肝炎(SAH)のADAMTS13活性は著減しており、これがアルコール性肝炎の発症ならびに進展に関与する可能性を指摘した(Alcohol Clin Exp Res,2005)。本年は、本酵素の基質であるVWF抗原ならびにUL-VWFMが血中で著増していることを確認し、本酵素と基質の不均衡がSAHにおけるMOFと密接に関与することを報告した(Alcohol Clin Exp Res,2007)。ADAMTS13活性が低下する機序としては、本酵素に対するインヒビターならびに炎症性サイトカインの著増が関与することを見い出した(Alcohol Clin Exp Res, in press)。また、健常人の中には中等量エタノール摂取後に本酵素活性が低下する例が存在することを見い出し、エタノール自身によるADAMTS13活性低下作用も考慮される。さらにSAHのみならず、特にMOFを合併する急性肝不全においても、本酵素活性の低下とVWF抗原の著増を観察している。一方、肝硬変において、血漿ADAMTS13活性は肝の重症度が増すにつれて低下し、末期肝不全の一部に血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)に匹敵する程度にまで低下する症例があることを見い出した。さらに、インターフェロン投与終了後にTTPが発症した慢性C型肝炎例において、本酵素活性の著減とinhibitorの存在を内外通じ始めて報告している(Hematologica,2006)。なお、肝移植例後、早期の血小板減少にはADAMTS13活性の著減が密に関与し、虚血再還流障害、早期拒絶の一因になる可能性を指摘した(Liver Transplantation,2006)。
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