グレリンは、GH分泌や摂食を亢進させるペプチドで、胃運動・酸分泌を亢進するが、その主たる産生部位は胃底腺の壁細胞近傍のA-like細胞である。このため、グレリン産生細胞と壁細胞間には密接な関連が推測される。壁細胞表面には、ヒスタミン2型受容体(H_2R)及びムスカリン3型受容体(M_3R)が存在し、酸分泌を調節している。本研究では、このH_2R或いはM_3Rノックアウト(KO)マウスを用い、壁細胞を介在する各シグナルを遮断した状態でのグレリン動態を検討した。16時間絶食後の血漿グレリン量および胃内グレリン量をRIAにて定量した。胃粘膜組織の免疫組織化学により、グレリン陽性細胞数、ECL細胞数を検討した。免疫組織電顕法によりA-like細胞中のグレリン含有顆粒を金コロイドで標識し、金コロイド定量解析法に基づき、分泌小胞内に存在するグレリン陽性金コロイド数を測定し、小胞内グレリン陽性金コロイド密度を算出した。 H_2RKOマウス(♂)では、15週齢及び54週齢で、ともに体重及び1日あたりの摂食量、胃内pHは、野生型マウス(WT)に比べ、有意に増加していた。定量的RT-PCRによる胃内プレプログレリンmRNA発現量は、H_2RKOマウスで野生型に比べ、15週齢でも有意に増加していたが、54週齢になると2倍以上に増加していた。胃内総グレリン量は、15週齢では有意な変化はなかったが、54週齢になるとH_2RKOマウスで野生型に比べ、有意に低下していた。一方、血漿グレリン濃度は、15週齢では有意な変化はないものの、54週齢になるとH_2RKOマウスでWTに比べ、有意に増加し、特に活性型グレリンの占める比率が増加していた。また、胃粘膜内グレリン陽性細胞数は、15週齢及び54週齢で、強染性細胞数では、H_2RKOマウスで有意ではないものの、わずかに増加傾向があり、淡染性、強染性を含めた総細胞数では、H_2RKOマウスで有意に増加していた。H_2RKOマウスでは、WTに比べ、A-like細胞内グレリン陽性金コロイド密度は有意に低下した。つまり、H_2Rの欠損では、ヒスタミン刺激の遮断による酸分泌低下が、グレリンの産生・分泌回転を亢進し、血漿グレリン値の増加、A-like細胞内貯蔵量の減少、プレプログレリンmRNAの発現亢進が招来されたものと考えられた。 M_3RKOマウス(25週齢、♂)では、WTに比し、体重は著明に減少したが、血漿総グレリン値、活性型グレリン値は両群間で有意差を認めなかった。一方、胃粘膜内グレリン陽性細胞数は両群間で有意差を認めなかったが、胃内総グレリン値、さらには胃内プレプログレリンmRNA発現量は、M_3RKO群で著明に増加していた。以上より、M_3Rの欠損では、A-like細胞よりのグレリン分泌が障害され、細胞内でのグレリン産生亢進と蓄積が生じているものと推察され、グレリン分泌にM_3Rを介したアセチルコリン介在シグナルが重要であることが示唆された。
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