研究概要 |
【背景】クローン病患者の末梢血中の白血球細胞系の遺伝子発現を検討することは、本疾患の病態解明と新たなる治療法開発の上で、重要である。「和食」と呼ばれる食品に豊富に含まれる乳酸発酵食品が、炎症性腸疾患の発症を抑制するか、病勢の沈静化に役立つかについて、遺伝子発現の面から検討した。 【方法】血液サンプルを溶血後、白血球細胞を分離し、総RNAをトリゾール試薬を用いて抽出した。DNaselで処理後T7-based RNA amplificationした。11833個の遺伝子を含むcDNAマイクロアレイを用いて、クローン病10例(小腸大腸型、腸管に狭小病変を有している40歳以下の症例)と健常対照9例の白血球細胞の遺伝子発現を比較した。ハイブリダイゼーションしたシグナルの強度をArrayVisionで測定した。Cys3およびCys5が10,000fluorescence units以下の強度であった場合は、検討から除外した。 【結果】対照群に比して、クローン病では43個の遺伝子がアップレギュレーションしており、54個の遺伝子がダウンレギュレーションしていた。この遺伝子の発現は、クローン病の病勢の活動指数であるCrohn's Disease Activity Index(CDAI)をはじめとする活動指数と関連して変動した。この中でも、発現が増強されていた遺伝子が14あり、発現が抑制されていた遺伝子が25あり、それぞれに病態に深く関連していた。 【考案】現在、この遺伝子群の解析を試みているところであり、アップレギュレーションしていた遺伝子、ダウンレギュレーションしていた遺伝子の詳細を解析することによって、炎症のメカニズムと遺伝子発現と病変の関連性が明らかになる可能性がある。さらに、麹菌発酵成分をクローン病に投与しながらクローン病の病態の変化を経過観察中であり、「和食」の原点でもある麹菌発酵成分は炎症の制御に役立っている可能性がある。経時的に採取した血中の白血球系細胞の遺伝子発現を併せて解析することにより、クローン病の病態改善における麹菌発酵成分の作用機序が明らかにされるものと考えられる。
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