慢性膵炎の組織学的特徴は、膵実質のび漫性、時には限局性の炎症性破壊、消失に伴う不規則な線維化であり、慢性膵炎の病因および病態を解明するうえで膵臓の線維化機序を検討することは重要である。TGF-βの刺激が細胞外から伝達されるとII型およびI型受容体は細胞表面に複合体を作って活性化される。その複合体にSmad2やSmad3は結合して活性化され、Smad4とともに核内に移行し、DNAのプロモーター領域に作用して遺伝子の発現に関与していると考えられている。膵におけるTGF-βの作用は、Smad2よりもSmad3を経由していることが判明しており、膵においてもSmad3の発現増強により、線維化をきたしてくると予想される。 今年度はTgマウス作製のため、まず導入するベクターを設計・作製した。臓器特異性をもたせ、必要な時期に発現を亢進させるために、クローンテック社製のTet-Onシステムを用いた。臓器特異性をもたせるためにプロモーターベクターとレポーターベクターの二種類のベクターが必要であった。プロモーターベクターはラットエラスターゼIのプロモーター領域をpTet-On vector CMVプロモーター領域の部分を組み換えることにより作製した。pTet-On vectorにはtTA(テトラサイクリン調節性トランス活性因子)とSV40poly(A)領域が含まれ、ラットエラスターゼIのプロモーター領域の下流に連結したDNA断片を作製した。Smad3導入遺伝子レポーターベクターの作製のため、テトラサイクリン応答因子を有するレポーターベクターにSmad3のcDNAを組み込んだ。ゲノムDNAを用いたほうが発現効率良好と思われたが、その場合には組み込むDNAが非常に長くなるために、今回はcDNAを用いた。実際にはマウスmRNAから得られたSmad3遺伝子の上流にテトラサイクリン応答因子(TRE)とminCMVを連結した領域およびレポーター領域に血液凝集素(HA)遺伝子とSmad3遺伝子とβ-globin poly(A)をもつDNA断片を調整した。来年度はこのDNAを用いてTgマウスを作成する予定である。
|