慢性膵炎の組織学的特徴は、膵実質のび漫性、時には限局性の炎症性破壊、消失に伴う不規則な線維化であり、慢性膵炎の病因および病態を解明するうえで膵臓の線維化機序を検討することは重要である。膵におけるTGF-βの作用は、Smad2よりもSmad3を経由していることが判明しており、膵においてもSmad3の発現増強により、線維化をきたしてくると予想される。 臓器特異性をもたせ、必要な時期に発現を亢進させるために、クローンテック社製のTet-Onシステムを用いた。プロモーターベクターはラットエラスターゼIのプロモーター領域をpTet-On vector CMVプロモーター領域の部分を組み換えることにより作製し、Smad3導入遺伝子レポーターベクターは、テトラサイクリン応答因子を有するレポーターベクターにSmad3のcDNAを組み込んだものを作製した。昨年度は、この二種類のベクターをマウス受精卵(200個以上)ずつに導入した。プロモーター領域を組み込んだマウスは27匹が得られ、PCRにて、5匹(5系統)のTgマウスが確認できた。Smad3を含むレポーターベクターを組み込んだマウスは16匹が得られ、PCRにて8匹(8系統)のTgマウスが確認できた。この作製できたTgマウスの表現型などを調べるために、継代可能な系を確立することに力を注いだ。F1では8系統の内、5系統のマウスを得ることができた。F2では、3系統が継代可能であった。TGF-betaの作用とSmad6に関する予備実験を行い、GUTに投稿し、論文として発表した。今後もこの3系統の表現型について精査を続けていく予定であり、さらには膵炎を惹起させて、膵線維化の変化を観察して、その結果を発表していく予定である。
|