研究概要 |
1,2-ジアシルグリセロール(DG)により活性化されるPKCは、心肥大の過程で重要な役割を果たす。心筋のDGの量は、DGキナーゼ(DGk)とフォスファチジン酸フォスファターゼ(PAP)により調節されている。ラット正常心筋においてはDGKεとζの2つのアイソザイムが主として発現しており、梗塞後心室リモデリングには、2つの酵素がそれぞれ異なった機序により関与していることを我々が報告している。 上行大動脈縮窄によるラット圧負荷心肥大モデルにおいて、左室心筋のDGKε mRNAは術後28日目に有意に発現量が低下したが、DGKζのmRNAおよび蛋白の発現量には有意な変化がなかった。しかし、DGKζ蛋白の膜分画/細胞質分画比は、術後28日目に有意に低下した。この時ラット肥大心筋において、DG含量はシャム手術群と比較して有意に増加していた。心肥大に関与するとされるPKCアイソザイムの発現を検討したところ、膜分画のPKCδの有意な増加がみられた。以上から肥大心においては、DGKεのmRNA発現量低下により膜のDGKε量が減少すること、さらにはDGKζの膜から細胞質への移行により、膜のDGKζ量が減少することにより膜のDG含量が増加し、PKCδの活性亢進が維持されることが示唆された。 DGKζの心筋特異的過剰発現マウスにおいて、大動脈狭窄による圧負荷肥大心モデルを作製したが、心肥大の程度は野生型と差がなかった。また、アンジオテンシンIIの持続静注による左室肥大モデルにおいても、心筋特異的DGKζ過剰発現マウスと野生型との間で心肥大の程度に差がなかった。これらの結果は、ラットの圧負荷肥大心モデルの結果と一致しない。この理由として、今回用いた心筋特異的DGKζ過剰発現マウスにおけるDGKζ発現量が心肥大を抑制するのに十分でなかった可能性があり、今後さらなる検討を要すると考える。
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