本研究の目的はTLR(Toll-like receptor)-2およびTLR-4のノックアウトマウス(KO)およびwild typeマウスに大動脈弓狭窄モデルを作成することで心肥大を形成し、そのモデルを慢性感染状態にして心筋組織での炎症細胞浸潤や炎症細胞の活性に変化が生じているのか、その変化が心筋の形態や機能に影響を及ぼしているのか、を明らかにすることでTLRが慢性心不全の発症、増悪に関与していることを示すことにある。TLR-2、TLR-4のノックアウトマウスおよびwild typeマウスに大動脈弓狭窄モデルを作成した後、2週および4週間後に心臓を取り出し心重量-体重比を検討したところ、TLR-4 KOマウス群ではwild typeマウス群に比して有意に心重量-体重比の増加が抑制されていた。TLR-2 KOマウス群とwild type群の間には有意差は認められなかった。その結果を裏付けるように、TLR-4 KOマウス群では心筋表面積やβ-MHC発現の増加も抑制されていた。また、心筋の組織標本での線維化率もTLR-4 KOマウス群で有意に抑制されており、この結果と相関して、wild typeマウス群で有意に増加する心筋組織のTGF-βおよびcollagen type Iの発現量は、TLR-4 KOマウス群で有意に抑制されていた。しかし、TLR-2 KOマウス群では明らかな違いは認められなかった。以上の結果から大動脈弓狭窄という心負荷条件化においてTLR-4は心肥大や線維化に強く関与していると考えられたが、TLR-2はあまり関与していないことが明らかとなった。TLR-4は体内および体外からのリガンドと結合して組織の炎症反応を促進することから、現在、体外からのTLRのリガンドであるLPSと心筋肥大や心筋組織の線維化に強く関与するアンギオテンシンIIを慢性的に同時投与し、心筋組織の炎症性変化や心機能への影響などを検討している。
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