研究概要 |
細胞内ドメインを欠失したEGFRドミナントネガティブ変異体(EGFR-DN)をα-myosin heavy chainプロモーターによって心筋特異的に発現するトランスジェニックマウスは症候性の心不全を呈し、5-20週齢で死亡することから、ErbB受容体シグナルが心筋細胞の機能維持あるいは生存に必須であると考えられる。その分子機構を明らかにするために、心不全発症前の2週齢の心臓から抽出したRNAサンプルを用いて、Affymetrix社のGeneChipを用いた発現プロファイリングを行った。EGFR-DNマウスの心臓では、Troponin IやMyosin binding protein C, Skeletal α-actinなどの胎児性遺伝子の発現が既に上昇していた。さらに、Baxの発現は変化ないものの、Bc12やBclxLの発現低下が認められた。したがって、ErbB受容体シグナルは、抗アポトーシス作用を有するBc12やBclxLの発現を転写レベルで維持している可能性が示唆された。しかし、ミトコンドリアの生合成やエネルギー代謝に関する遺伝子発現には有意な変化は認められず、EGFR-DNマウスで見られたミトコンドリアの構造機能の原因については現在のところ不明である。 最近、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の投与によって、マウス心筋梗塞後の心室リモデリングが抑制されることや、G-CSFが直接的に心筋保護作用を有することが明らかとなっている。そこで、EGFR-DNマウスにG-CSF 1000mg/kgを週1回皮下投与し、G-CSF投与が慢性心不全に対しても有効性を発揮するか検討した。しかし、G-CSF投与群とmock投与群との問で生存率に有意差は認められなかった。現在、G-CSFの投与量や投与方法についてさらに検討を行っている。
|