心筋は生後最終分化に入り増殖を停止する。このため心筋梗塞などにより心筋が傷害された場合には、再生されないため重症心不全に陥る例が多い。現在のところ心移植以外に根治療法がないが、申請者は不全心筋に残存した心筋細胞自体を増殖させる「心筋分裂再生治療」を行う技術の開発を目指して心筋細胞の増殖抑制メカニズムについて研究してきた。今までに心筋細胞増殖抑制メカニズムには、まずサイクリンD1の核移行の障害(first barrier)、さらにはp27^<kip1>分解障害(second barrier)の少なくとも2段階の制御機構が存在することを報告した。そこで本研究では核移行シグナルを付加したサイクリンD1(D1NLS)・CDK4・Skp2によるp27分解により心筋梗塞モデルラットの心機能および生命予後を改善するかアデノウイルスを用いて遺伝子導入を行い、その効果を解析した。その結果、(1)遺伝子導入4日後のD1NLS/CDK4/Skp2群の心組織において、遺伝子導入部で増殖マーカー(Ki67)陽性心筋細胞・M期マーカー(Histone H3 リン酸化抗体)陽性心筋細胞が多く認められた。(2)遺伝子導入6週間後のエコー、カテーテル検査からD1NLS/CDK4群で軽度、D1NLS/CDK4/Skp2群で明らかな心機能の回復、心筋梗塞巣の縮小、肺重量の軽減が認められた。 以上より、サイクリンD1NLS・Skp2の組み合わせによる心筋再分裂により、傷害されたin vivoの心機能回復を促すことが可能であることが示唆された。すなわち、サイクリンD1・Skp2の強制発現は、組織内心筋細胞をin situにおいて分裂させ、心不全などの再生治療応用に利用できる可能性がある。
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