心筋細胞は生後まもなく増殖能を失い終末分化状態に入る。我々は、これまでに、核移行シグナル付加サイクリンD1(D1NLS)の核内強制発現と、Skp2によってp27を分解することでより安定な培養心筋細胞の再分裂を誘導できることを見出している。また昨年度までに、成体ラット心筋梗塞モデルにD1NLSウイルス(D1NLS群)、D1NLS/Skp2ウイルス(Skp2群)を心筋に直接注入した個体での心機能と心不全の改善効果を確認した。本年度は、詳細な組織学的細胞周期解析を行った。 遺伝子導入後4日後の心筋の解析の結果、遺伝子導入部位で増殖マーカーKi67陽性心筋細胞が数多く認められただけでなく、明らかな有糸分裂中の心筋細胞が認められた。その割合はD1NLS群<Skp2群であった。また、細胞質分裂中の心筋細胞が認められ、分裂後の娘細胞も心筋のphenotypeを維持していた。以上の結果から、サイタクリンD1・Skp2の強制発現は、組織内心筋細胞をin situにおいてphenotypeを維持したまま分裂させることが示され、またSkp2を追加することによる高い増殖能が認められた。 しかし遺伝子導入後7日後のサンプルでは、著しい細胞周期活性の低下が認められた。このことから、心筋細胞には細胞周期活性の持続を妨げているさらなるバリアーがあると考えた。そこで、心筋細胞に増殖刺激を与えた際の細胞周期関連因子のmRNAのレベルを解析することによって、心筋細胞の増殖抑制メカニズムを解明することを目的として、心筋のsingle cell genomics解析を行っている。これまでに、成体ラットの心筋を単離することに成功しており、単離した心筋細胞からmRNAを抽出し、サイクリンD1・Skp2発現によって変動する細胞周期関連因子のmRNAレベルをprofilingしている。
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