研究概要 |
心不全における心臓の収縮・拡張機能障害の原因として、心筋細胞のCa^<2+>代謝の異常が提唱されている。不全心筋では、(1)SRCa^<2+>ATPase(SERCA)によるCa2+取込みの低下、(2)SRCa^<2+>放出channelからのFK506-bindingProtein(FKBP)の解離によるCa^<2+>漏出の増加、及び(3)Na^+/Ca^<2+>交換を介するCa^<2+>排出の代償的増加が示されている。最近、SERCAの活性化薬であるMCC-135が心筋の収縮・拡張能を改善すること(Satoh,2001)が報告された。また、Na^+/Ca^<2+>交換の不完全抑制が心不全細胞のCa^<2+>代謝を改善すること(Hobai,2004)も報告され、最近のKB-R7943,SEAO400,SN-6など、Na^+/Ca^<2+>交換に特異的な阻害薬の開発とあわせて、心不全治療への応用が期待される。 平成17年度は、正常ラット心筋細胞において、SERCA活性化薬であるMCC-135の細胞内Ca^<2+>transientと収縮に及ぼす効果を検討したが、残念ながら期待した陽性変力作用は認められなかった。一方、SN-6はモルモット心筋細胞において特異的にNa^+/Ca^<2+>交換のCa^<2+>流入モードを阻害して、Ca^<2+>過負荷の予防に有用であることが示された。また、他のNa^+/Ca^<2+>交換阻害薬であるSEAO400は、ラット虚血/再灌流心において、収縮力、エネルギー代謝の回復を促進させる効果が認められた。MCC-135にかわる治療として、最近、蛋白脱リン酸化酵素の阻害薬であるInhibitor-I,Inhibitor-IIがSERCAにおけるphospholambanのリン酸化を介してSRCa^<2+>取り込みを選択的に活性化することが報告されている。平成18年度は、サポニンにて処理したスキンド心筋細胞を使用し、Inhibitor-1がproteinkinaseA投与時のSERCAによるSRCa^<2+>取り込みを増大させるが、Ca^<2+>sparkにより評価されるSRからのCa^<2+>放出を促進せず、結果としてSRCa^<2+>含量を増加させることを示した。 今回の研究により、心不全細胞におけるCa^<2+>代謝異常に対して、Na^+/Ca^<2+>交換阻害薬および蛋白脱リン酸化酵素阻害薬が有効である可能性が示された。今後は、より生理的な条件でこれらの阻害薬を試み、臨床応用への可能性を検討する予定である。
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