心筋梗塞をはじめとする虚血性心疾患は、日本を含む先進工業国における主要な死因のひとつであり、国民の健康施策上、克服すべき最も重要な課題のひとつである。心臓の虚血再灌流による細胞死のメカニズム解明や、それに基づく心筋保護効果を期待した治療戦略の確立は急務である。より効果的でかつ理に適った心筋保護戦略を確立するためには、分子あるいは細胞レベルでの詳細な細胞死メカニズムの解明が不可欠である。本プロジェクトにおいて、生きた臓器(心臓)において細胞レベル、分子レベルの事象を観察するための方法論を確立することを目標とした。きわめて薄くまた透明度も高い単層の培養心筋細胞に比べて、心臓そのものが観察対象ということになると、そのイメージングには数々の障壁が存在する。それを打ち破れる可能性を持つイメージング手法として、我々は本研究において多光子共焦点レーザー顕微鏡(Multiphoton Laser Scanning Microscopy:MPLSM)を用いてのリアルタイムイメージングを用いた。MPLSMは、特殊な赤外線レーザーを用いて蛍光色素を励起し画像を取得するもので、通常の共焦点顕微鏡に比べて、より長波長域のレーザーを用いるため組織深達度に優れ、また焦点面のみで励起が起こるため蛍光退色が少なく組織傷害が少ないという利点をもつ。 本研究では、ラット心を顕微鏡のステージ上において灌流し、MPLSMを用いて虚血または再灌流時の細胞レベルでの形態、機能変化を時間的かつ空間的に追跡し、そうした変化を制御する因子、またそれを抑制するための手段(薬剤を主として)の選択、その効果を判定する。我々は、細胞の生死の制御に中心的な役割をもつミトコンドリア内膜電位を標識して、この経時的変化をモニターできる実験系を確立し、虚血再灌流時の変化を克明に追跡することに成功し、その成果を発表することができた。
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