研究概要 |
NRSFの心不全の病態形成における意義を検討する目的で作成した優勢劣勢変異型NRSF Tgマウス(以下、dnNRSF)は表現型として心拡大・心不全を示す心不全モデルマウスとなった。dnNRSFではANP,BNPをはじめとする心筋胎児型遺伝子の発現が亢進しており、NRSFはそれら心筋胎児型遺伝子の発現を抑制することが明らかになった。同時にこのdnNRSFでは心筋組織所見の特徴として、間質の線維化と心筋線維の配列の乱れ、ミトコンドリアの大小不同などの変性所見がみられており、心筋細胞におけるエネルギー代謝の障害がこのモデルマウスの心不全発症に関与している可能性が示唆された。本年度はNRSFに寄る心筋の遺伝子発現調節のメカニズムを解明することが心不全の分子機序解明につながると考えて研究を進めた。すなわち、これまでの検討でNRSFが遺伝子発現を抑制するメカニズムとしてclass I HDACと会合することが重要であることはすでに明らかにできていたので、心筋特異的な機序を解明する目的で生体内で広く存在するclass I HDACではなく、心筋などに特異的に発現するclass II HDACが関与する可能性とその機序についてを検討した。今回の検討の結果、心筋細胞内でNRSFがclass II HDACであるHDAC4あるいはHDAC5と結合することが明らかになった。エンドセリンー1による細胞外からの心筋細胞肥大刺激によりこれらclass II HDACは核内から核外に移行した。このclass II HDACの核外への移行にCaMKが関与することがCaMK inhibitorであるKN62やdominant-negative CaMKを用いた実験によって明らかになった。実際に、大動脈結紮による圧負荷モデルマウスにおいて心筋におけるNRSFとclass II HDACとの結合が抑制されたことから、生体内における心肥大、心不全発症機序に本メカニズムが関与することが証明できた。
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