1.血管内皮リパーゼ(endothelial lipase : EL)の炎症の制御に関する検討 ELが炎症の制御にはたす役割を検討する目的で、ELノックアウトマウスに対してLPSを腹腔内に投与し、死亡率や組織の炎症の程度、炎症性サイトカインの誘導について検討した。野生型マウスではLPS投与によって全身の炎症が生じ、ELの発現が亢進していた。一方、ELノックアウトマウスでは、サイトカインの誘導は抑制されており、全身の炎症も軽度であった。また、ELノックアウトマウスの死亡率は野生型マウスに比べて低いものであった。ELノックアウトマウスではHDL濃度も高値のままで炎症によっても低下しなかった。また、これらのELの発現は抗炎症作用を有すると報告されているスタチンによって発現が抑制されることが明らかとなった。これらの結果から、ELはHL代謝を介して炎症の制御を行っており、ELを不活化することでHDLは増加し、炎症に対して抵抗性になると考えられた。 2.ELの測定法の開発と脂質代謝にはたす意義 ELがヒトの脂質代謝にどのように働いているかについて明らかにする目的でELに対するモノクローナル抗体を作成し、ELのELISAによる測定系を確立した。ヒト血液中のELの濃度は平均で約330ng/mlであり、総コレステロールやトリグリセリドとは相関していなかったが、HDL-C濃度とは逆相関していた。 以上の結果より、ELはマウスだけではなくヒトのHDL代謝に重要な役割を果たしており、血管局所や組織での炎症の制御を行っていると考えられた。
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