1.炎症時の低HDL-C血症にはたす血管内皮リパーゼ(EL)の役割 ELノックアウトマウス、トランスジェニックマウスに対してLPSを腹腔内に投与し、ELの発現、脂質の変化について検討した。野生型マウスではLPS投与によって全身の炎症が生じ、ELの発現が亢進した。この際に、血液中のHDL濃度が低下した。一方、ELノックアウトマウスでは、全身の炎症は軽度であり、HDL濃度にも変化が認められなかった。さらに、死亡率を検討したところ。ELノックアウトマウスはLPSに対して抵抗性であり、死亡率は低下していた。これらの結果から、ELはHDL代謝を介して炎症の制御を行っており、ELを不活化することでHDLは増加し、炎症に対して抵抗性になると考えられた。 2.ヒトELとHDL-Cおよび急性心筋梗塞との関連 ヒト血中ELの測定系として、当院循環器内科に入院された患者150人のELを測定した。ヒト血中EL濃度は平均335ng/mlであり、年齢や性差との関係は認めなかった。また、血清中のHDL-Cと逆相関していた。一方、TGや総コレステロールやLDLコレステロール、中性脂肪との相関は認めなかった。さらに、ELの遺伝子多型(SNPs)と急性心筋梗塞の発症との関係を検討した。その結果、T alleleは急性心筋梗塞の発症リスクを低下させており、584C/T遺伝子多型がHDL-C値とは独立して急性心筋梗塞の発症に関与していることが明らかとなった。 以上の結果より、ELはメタボリックシンドロームや2型糖尿病などの慢性炎症にともなう低HDL血症の成因に関与している可能性が考えられた。さらに、ELは動脈硬化をはじめとする血管病変の形成に重要な役割を果たしている可能性が考えられた。
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