Mst1はセリン/スレオニンリン酸化酵素の一つであり、Mitogen activated protein kinase(MAPK)上流のkinase(MAPK kinase kinase kinase)としての作用とアポトーシス誘導作用が知られている。Fas/FasLを介したアポトーシスやProtein kinase C阻害薬などの化学物質によるMst1の活性化が、リンパ球や線維芽細胞などにおいて報告されているが血管におけるMst1の役割を研究した報告はない。 血管平滑筋細胞をスタウロスポリンで刺激するとMst1が活性化され、アポトーシスに陥った細胞が増加した。Mst1の活性化はカスパーゼ3の阻害薬により抑制された。アデノウイルスを用いて平滑筋細胞にMst1を過剰発現させるとMst1自身とカスパーゼ3が活性化され、同時にアポトーシスを起こした細胞が増加した。ラット頸動脈をバルーン傷害すると、主に新生内膜においてMst1の発現が増加した。バルーン傷害後にアデノウイルスを用いてMst1を発現させると、新生内膜の形成が抑制された。そのさいBrdUの取込みには影響を認めなかったが、TUNEL陽性のアポトーシス細胞が増加した。平滑筋細胞の増殖とアポトーシスのバランスが新生内膜形成の程度に関係することが示された。 これらの結果から血管平滑筋細胞のアポトーシスにMst1が関与することが明らかとなった。ステント内再狭窄は平滑筋細胞の増殖を主体とする病変であり、このような病態にはMst1の活性化が再狭窄予防の有効な治療戦略のひとつとなる可能性が示唆された。
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