研究課題
昨年セリン/スレオニンリン酸化酵素の一つであるMst1の過剰発現が平滑筋細胞のアポトーシスを誘導し、ラット頸動脈のバルーン傷害後の新生内膜形成を抑制することを報告した。Mst1を活性化する刺激は活性酸素や紫外線などの非生理的な刺激がほとんどで、Fas/Fas Ligand以外の生理的な刺激での活性化は報告されていない。そこで、いくつかのサイトカイン等について検討したところTumor necrosis factorα(TNFα)が内皮細胞においてMst1を活性化することをみいだした。TNFαによるMst1の活性化はカスパーゼ3阻害剤および抗酸化薬により抑制されたので、カスパーゼ3および活性酸素に依存していると考えられた。siRNAによりMst1の発現を抑制すると、TNFαによる内皮細胞のアポトーシスが部分的にでは有るが抑制されることがわかった。したがって、TNFαによるアポトーシスの一部はMst1を介するものと考えられた。また、cAMPによって誘導されるinducible cAMP early repressor(ICER)とよばれる転写因子の機能を解析した。ICERは平滑筋細胞においてプロスタサイクリン誘導体であるベラプロストによりその発現が誘導された。ベラプロストは血小板由来増殖因子による平滑筋細胞の増殖を抑制するが、siRNAによりICERの発現を抑制すると、ベラプロストの効果が低下することがわかった。したがって、ベラプロストによる増殖抑制効果の一部はICERの誘導によると考えられた。ICERを発現するアデノウイルス(AdICER)は平滑筋細胞にアポトーシスを誘導した。またラットの頸動脈バルーン傷害後にAdICERを感染させると、血管壁におけるアポトーシスが増加し、新生内膜の形成が抑制された。2年間の研究により、Mst1やICERが血管平滑筋細胞にアポトーシスを誘導し血管病変の抑制に作用することがわかった。今後これらの分子をステント内再狭窄へ応用する基本的技術の開発を行う予定である。
すべて 2006
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