研究概要 |
多くの遺伝子の段階的な働きにより心臓の分化過程において心筋細胞が1機能的に分化し、心臓器官が形成される。最近の分子生物学手段により心臓分化に関わる転写因子及び細胞増殖因子が次々と同定され、心筋細胞分化のメカニズムの解明が進んでいる。心筋細胞の分化はBMPやET-1、CT-1などの細胞増殖因子が作用することによって誘導され、核内に心筋特異的な転写因子(Csx/Nkx-2.5,GATA4,MEF2Cなど)が活性化される。そして、最終的には心筋細胞特異的蛋白(ミオシン,アクチン,イオンチャネル)が発現する。しかし、胚性幹細胞由来心筋細胞の分化に伴う心筋特異的イオンチャネルの発現を制御する転写因子については、未だ解明されていない。また、心筋の興奮収縮連関の入口となる活動電位形成のためのイオンチャネル発現の詳細も不明である。一方、MAPKは細胞外の情報を核内へ伝える主要な経路の一つであり、さまざまな細胞外刺激によってMAPKKK及びMAPKKの経路を経て細胞分化や増殖に関係している。多分化能未分化細胞の分化心筋細胞における細胞膜電流形成とそれに関わる細胞内シグナルを介する転写因子の制御様式の解析を行った。マウスP19CL6細胞はdimethyl sulfoxide(DMSO)の刺激によって心筋細胞分化誘導を受け、自動拍動性を獲得する。Mitogen-activated protein kinase(MAPK)は心筋細胞分化と形態形成において重要な役割を果たしていることが知られている。本研究ではP19CL6細胞由来分化心筋細胞における膜電流形成に関わる細胞内シグナル、とりわけMAPKを介するイオンチャネル発現の制御様式を検討した。P19CL6細胞は分化誘導後に過分極誘発内向き電流(I_h)と2種類のCaチャネル電流(I_<Ca.L>, I_<Ca.T>)を発現し、89bpmの自動拍動性を示した。分化誘導後の自動拍動とペースメーカイオンチャネルはp38-MAPKの阻害によって発現が抑制され、細胞膜電位も未分化P19CL6細胞と同様な状態に保たれた。更に、転写因子GATA4の発現も著明に抑制された。古典的MAPK(ERK1/2)、ERK5及びJNKの活性抑制下での分化心筋は83〜108bpmの自動拍動性を示し、3種類のペースメーカイオンチャネルの発現も対照と同程度に観察された。よってP19CL6細胞の心筋細胞への分化過程におけるペースメーカイオンチャネルの発現に非古典的MAPK(p38-MAPK)を介するシグナル経路が関わることが解明され、イオンチャネルの発現を制御するbioペースメーカの理論的考証得られた。
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