本研究では、細胞表面あるいは細胞外で働く分子を標的とし、ES細胞の心筋細胞分化の分子機構の解明と分化効率の改善、ES細胞由来心筋細胞集団の単離法の開発を目的とした。本年度はES由来心筋分化細胞およびラット新生仔心筋細胞を用い、シグナルシークエンストラップ法により細胞表面分子および分泌される因子、すなわち受容体や増殖因子およびその修飾因子を標的とする機能的発現クローニングを行い、現在まで心筋細胞に発現することが知られていなかった表面分子の同定に成功した。さらに、各種の臓器、および様々な細胞種、各分化段階でのES細胞を用いて、これらの遺伝子発現を検討し、ES細胞の分化に伴い著明に遺伝子発現が亢進し、心筋細胞特異的に発現する4種の遺伝子を同定した。これらの機能を解析するためにレトロウイルスを用いた強制発現およびsiRNAを用いた発現抑制系を確立し、これらの効果を検討したところ、4種のうち一つでは強制発現によりES細胞の心筋分化が充進し、発現抑制により心筋細胞分化が抑制されることを見出している。この分子は膜一回貫通型の表面分子であり、現在まで、その生理作用、分子機構ともまったく不明である。そこで、心筋細胞特異的プロモーターを用い、その効果を解析したところ、この分子は他の心筋細胞特異的転写因子と共同してプロモーター活性を相乗的に活性化することを見出しており、現在、その分子機構の解明を通じて、この分子の心筋分化における役割と、分子機構を明らかにするべく検討を進めるとともに、細胞外部分に対する抗体を作成し、心筋分化細胞の単離法の開発を行っている。
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