喘息は慢性の炎症性肺疾患であり、吸入ステロイドによる抗炎症治療が積極的に行われるようになった現在でも、一部の患者では徐々に気道リモデリングが進行し、気道の閉塞性障害が非可逆的になる。その結果、喘息のコントロール維持のために慢性的な経ロステロイドの投与が必要となり、著しく生活のQOLが低下してしまう。本研究ではゲノム多型情報を用いて、慢性的に進行、悪化する喘息患者を同定することを目的とした。個々の遺伝因子の寄与度が大きくないことを踏まえ、検出力もっとも高いと考えられる患者対照研究を用いた。またそれぞれの候補分子が持つ生理的な機能から、生物学的に意味があると考えられた場合には遺伝子-遺伝子交互作用についても検討した。検討した遺伝子はオステオポンティン遺伝子、IL-17F遺伝子、β2交感神経受容体(ADRB2)遺伝子、プラスミノーゲンアクチベーターインヒビター(PAI-1)遺伝子さらにはムスカリン受容体M1遺伝子である。気管支喘息患者(約400名)、健常人(約400名)を対象とした。これまでの検討の結果、オステオポンティン遺伝子多型は血清総IgE値に遺伝的な影響を与えていた。IL-17F遺伝子多型は喘息の有無と有意に相関した。ADRB2遺伝子は健常人における気道過敏性の多寡と有意に関連した。一方、FCER1B遺伝子とPAI1遺伝子いずれの多型も単独では気管支喘息との間に関連を認めなかったが、FCER1B遺伝子がTT型の場合にはPAI1遺伝子5G5G型が4G型を有する遺伝子型(4G4G or 4G5G)に比べ有意に喘息発症のリスクが小さかった。ムスカリン受容体M1受容体遺伝子のプロモーター領域に存在する2箇所の一塩基多型(SNP)は、転写活性に影響を与えること、さらに転写活性が亢進する多型を有する群で喘息発症のリスクが高いことを発見した。これまでの一連の研究結果は、検討したそれぞれの分子の喘息病態における重要性を遺伝疫学的な手法で確認したことに加え、それらの遺伝因子が喘息の重症度に影響を与えてい可能性を示した。
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