これまでの研究より、高齢者の嚥下反射はたとえ障害されたとしても温度依存性であり、温度感受性受容体の一つであるTRPV1刺激により効率的に改善されることが判明した。そこでTRPV1の持続刺激により嚥下反射が改善されるかどうか、同アゴニストであるカプサイシン含有トローチを作成してそれを嚥下反射遅延高齢者に投与し、その効果を調べた。また、嗅球など様々なところに存在する脳内TRP受容体に、同アゴニストのpiperineを含む黒胡椒精油による嗅覚刺激の効果を調べた。[方法]カプサイシントローチ及びそのプラセボを、施設入所中の高齢者をランダムに2群に分け投与し、一ヶ月の中期投与の効果をみる。また、別施設において、黒胡椒精油、およびラベンダー精油、匂いナシ群として蒸留水を嗅がせ、3群にわけて、その直接効果および一ヶ月間の中期投与効果を調べる。アウトカムとしては気道防御能としての嚥下反射、咳反射それとADL、認知機能、血中サブスタンスP量などを測定。嗅覚刺激による研究では、脳血流シンチも前後で撮影した。[結果]一ヶ月の毎食前のカプサイシン投与により、カプサイシン含有トローチ群においてプラセボ群と比べ、有意に両反射(嚥下・咳)が改善した。又、黒胡椒精油による嗅覚刺激では、大脳島部の血流増加及び、嚥下知覚および運動反射が有意に改善した。[考察]この研究を通して口腔および咽頭部のTRPV1の慢性刺激の咳・嚥下反射改善と、又、嗅覚刺激による大脳島部血流増加を介した嚥下知覚・運動反射改善が認められた。[結論]本トローチの投与は高齢者の誤嚥性肺炎の予防につながると考えられると同時に、口腔及び咽頭内の機能低下が著しい高齢者の嚥下機能リハビリにも有用と思われる。さらに、トローチ飲用が難しい高齢者や気管切開中、胃管挿入中の高齢者に黒胡椒精油による嗅覚刺激は非常に有用と思われた。
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