研究概要 |
H17,18年度に引き続き「温度感受性受容体と高齢者誤嚥」について従事した。 温度感受性受容体刺激と嚥下反射の関係を調べた「嚥下反射と食事の温度の関係」(J Am Geriatr Soc 2004;54:2143)に基づき、冷感の温度受容体であるTRPM8アゴニストであるメンソールの嚥下反射改善効果は(Brit. J Clin. Pharmacol 2006;62:369-371)、産学共同製品として2007年9月より、既に実際の臨床現場で誤嚥予防嚥下リハビリテーションの一環として使用されている。黒胡椒精油を用いた嗅覚刺激による上気道防御反射の改善効果を示したが(J. Am. Geriat. Soc. 2006;54:1401-1406)、この研究成果を基礎に、新規のドラッグガスデリバリーシステムとして、この芳香成分を炭素に吸着させ、首周辺に貼るだけで24時間、誤嚥予防できるパッチシートを産学共同製品として開発し、H19年3月より実用化している。誤嚥性肺炎に罹患すると、絶食下で加療を行うが、肺炎改善後食事をスムーズに摂食できなく、胃?造設になることが多い。以上の結果は、できるだけ最後まで、経口摂取を可能にする、食の楽しみを維持することに、大いに役立つと考えられる。また、「科学的見地に基づいた介護」的アプローチとして、一般に普及することができる。 また、円背や食道裂孔ヘルニア罹患のため高齢者に多くみられる「胃食道逆流と誤嚥の関係」を明らかにした。嚥下反射はPH(酸度)と負相関を持ち(Geriatr & Gerontol International 2007;7:94-95)、咳感受性の亢進はプロトンポンプインヒビターで正常化する(J. Am. Geriatr. Soc. 2007;55:1686-1688)。そして、胃食道逆流を発症しやすい胃切除高齢者において、一年間の観察期間で、セロトニン受容体作動薬のモサプリド内服群は非内服群と比較し有意に肺炎の発症を抑制した(J. Am. Geriat. Soc. 2007;55:142-144)。以上より、胃切除者や食道裂孔ヘルニア高齢者の肺炎は、嚥下反射が正常でも胃酸の逆流が原因である可能性が高い。従来の誤嚥対策(ACE阻害剤、ドーパミン遊離促進剤)ではないアプローチが重要であることが示唆された。
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