研究概要 |
本研究により、まず肺癌細胞、特に肺腺癌細胞(A549)で、血管新生を介さないような浸潤能にもthymidine phosphorylase(TP)が直接関与する可能性を報告した(Sato J, Sata M, et al. Int J Cancer 2003)。即ち、TPはヌードマウスにおける肺腺癌細胞の転移を増強させたがこれはTPの特異的阻害剤(TPI)投与により抑制された。さらに肺腺癌細胞のMatrigelへの浸潤能はTPの強制発現により増強したが、これはTPIにより著明に抑制された。 次にTPと接着因子であるα2,β1インテグリンとの関係を調べた。フローサイトメトリーで肺腺癌細胞(A549)のα2,β1インテグリンの発現を観察したところ、TPI処理によりβ1インテグリンの発現が有意に抑制された(Wada T, et al. Chemotherapy, in press)。これらの検討結果は、TPのシグナル経路の下流にβ1インテグリンがある可能性を示唆している。我々は本研究に関連して、抗腫瘍効果が示唆されているマクロライド系抗生剤のクラリスロマイシン(CAM)の肺腺癌細胞への作用についても検討している。CAMはA549肺腺癌細胞の増殖能には影響を及ぼさないが、A549細胞のTP発現を濃度依存性に抑制し、さらにMatrigelへのA549細胞の浸潤能を濃度依存性に抑制した。同様の結果は金コロイド法による検討でも得られている。さらに、CAMのこうした浸潤能抑制作用のメカニズムを解明するために、まずインテグリンへの作用を調べたところ、α2,β1インテグリンの発現がCAM処理により有意に抑制されることを見い出した(Wada T, et al. Chemotherapy, in press)。以上の結果から、CAMの肺腺癌細胞浸潤能抑制メカニズムの1つとしてα2,β1インテグリンを介した経路が示唆されるだけでなく、CAMからインテグリンへのシグナル経路がTPを経由している可能性が考えられた。
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