研究概要 |
本年度は、申請研究計画に則り、肺の線維化に対するIL-10の抑制効果を検討した。ブレオマイシン惹起性の肺線維症マウスモデルの系を用い、この系にIL-10発現プラスミドを投与して、その効果を判定した。その結果、以下の結果を得た。 1)ブレオマイシン(Bleo)の気管内投与の直後にIL-10を投与すると、14日後に惹起される肺線維化は抑制された。 2)一方、7,14日目で観測した肺の炎症は抑制されていなかった。即ちIL-10は、Bleoにより惹起される炎症を抑制する事無しに、直接線維化形成を抑制する事が明らかになった。 3)次に、IL-10による抑制のメカニズムを明らかにするため、マウスの肺より肺胞マクロファージ(alveolar macrophage : AM)を採取し、in vitro, ex vivoの解析を行なった。その結果、IL-10はAMからのTGF-βの産生を抑制することが判明した。 4)さらに、TGF-βの活性化に及ぼす効果についても検討した。IL-10,は潜在型TGF-βの産生を抑制するのみでなく活性型TGF-βの産生も抑制していた。即ち、IL-10はTGF-βの産生と活性化の両方に効果を発揮することが明らかになった。 5)近年、TGF-βの活性化に上皮細胞上のα5βvインテグリンが重要であることが報告されたので、IL-10投与の効果を検討した。IL-10は、肺胞上皮でのα5βvインテグリンの発現を低下させた。 6)最後に、Bleo投与後14日目に肺の線維化が引き起こされた後にIL-10を投与しても、28日目に解析すると、線維化の進展は有意に抑制されていた。 以上の結果より、IL-10は、線維化の進展過程および完成された後のいずれの時期においても抑制効果を持ち、その機序の一つとして、肺局所におけるTGF-βの産生と活性化を抑制する事が明かとなった。この結果は、英国呼吸器学会雑誌(Thorax)に原著論文として報告した。
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