βアドレナリン受容体刺激薬の気道平滑筋の弛緩効果は、他のβアドレナリン受容体を介さないcAMP関連薬物と比べ、著しい細胞内Ca^<2+>濃度の低下をともなうことなく同等の弛緩効果が得られた。これは、細胞内Ca^<2+>に対する感受性の低下が関与していることを示している。そして、Ca^<2+>動態だけでなく、Ca^<2+>感受性の低下の障害で反応性の減弱(βアドレナリン受容体の耐性化)が起こる。 気管支喘息の脂質メディエーターの可能性があるスフィンゴシン1リン酸(S1P)や、酸化ストレスの指標である過酸化水素は、濃度依存性に細胞内Ca^<2+>を上昇させて気道平滑筋の収縮(気流制限)が生じた。S1Pを気道平滑筋に曝露した後、Rho-kinaseのミオシン脱リン酸化酵素における標的蛋白であるMYPT1の活性がS1Pにより阻害され、Rho由来の細胞内Ca^<2+>感受性の亢進によりムスカリン受容体刺激に対する反応性(気道過敏性)が著明に亢進した。 気管支平滑筋細胞は種々の増殖因子によりDNA合成とともに増殖した。この細胞増殖はRho由来の細胞内情報伝達系で制御されており、Rho-kinase阻害薬で抑制することが判明した。この結果は、Rho/Rho-kinase活性の抑制で平滑筋の肥厚(気道リモデリング)が防止できる可能性を示唆している。 感作したマウスに抗原刺激をすると気道周囲に好酸球を中心とした炎症細胞の浸潤と、ムスカリン受容体刺激による気道抵抗の亢進が生じた。Rho-kinase阻害薬を投与すると、抗原刺激由来の好酸球性気道炎症、および気道過敏性の亢進は、ともに著明に抑制された。 以上の結果より、Rho/Rho-kinase系の活性化は、気管支喘息のあらゆる病態の機序に関与しているので、Rhoはこの疾患の治療において標的蛋白となりうる。そして、Rho-kinase阻害薬はこの疾患のあらたな治療薬として有用である。
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