粘液繊毛輸送能は、(1)イオントランスポート、(2)ムチン分泌、(3)線毛輸送能、により維持されている。これらの障害は、慢性気道炎症性疾患(COPD、気管支喘息)の病態の進展に深く関与する。本研究は、粘液繊毛輸送障害を起こす内因性・外因性炎症誘導物質とその標的分子について検討し、以下の結果を得た。 1)プロテアーゼ受容体 炎症細胞や気道上皮細胞由来のトリプターゼ・トリプシンの受容体(プロテアーゼ受容体、PAR)のうち、PAR-2が、ヒト気道上皮細胞および気管支腺の基底膜則に局在して分布した。PAR-2の刺激は、PKCを活性化し、PAR2に共役したphosphatidylcholine phospholipase C (PC-PLC)に負のフィードバックを起こし、自らの再刺激を抑制する。また、同時に粘液繊毛輸送に重要なATP受容体(PC-PLC共役受容体)も抑制した。またはPAR-2の刺激は、気道分泌腺のムチン蛋白(MUC5AC)を誘導した。すなわち、PAR-2刺激は、粘液繊毛輸送障害を促進させるが、それを抑制する負のフィードバック機構が存在することも明らかにされた。 2)オキシダントストレス Oxidative stress(H_2O_2)を気道上皮に与えた場合、その投与される細胞の局面により異なる反応を示した。すなわち、気腔膜則からのOxidative stressは、気道分泌腺のムチン蛋白(MUC5AC)分泌を誘導したが、基底膜則からの刺激は、逆にムチン分泌を抑制した。この機序には、基底膜側細胞膜に多く局在するスフィンゴ脂質からのセラミドが関与する可能性が示唆された。一方、Oxidative stressは、cystic fibrosistransmembrane conductance regulator(CFTR) Cl^- channelのkineticsを抑制し、重炭酸分泌を減少させ、気腔表面を酸性化した。
|