悪性胸膜中皮腫は、早期診断が困難な上に化学療法や放射線治療に対する感受性が極めて低くその予後は著しく不良であり、有効な治療法の開発が急務である。そのためには悪性胸膜中皮腫の増殖・進展機構の解明が必須であるが、そのような研究は皆無に等しい。その要因のひとつには、悪性胸膜中皮腫の臨床的増殖・進展様式を反映した動物モデルの欠如があげられる。昨年度までに、ヒト悪性胸膜中皮腫細胞株EHMES-10をSCIDマウスに胸腔内投与することで胸腔内腫瘤および大量の血性胸水を形成するという、臨床の悪性胸膜中皮腫の進展様式を反映した同所移植モデルを確立した。 本年度は、非小細胞肺癌において発見された新規癌抑制遺伝子MYO18Bの悪性胸膜中皮腫における役割を明らかにするため、MYO18B発現回復による腫瘍増殖抑制効果を検討した。EHMES-10細胞にMYO18Bを遺伝子導入し、増殖能をMTT assayとcolony formation assayで、遊走能をwound healing assayにて検討した。細胞株を重症免疫不全マウスに異所(皮下)接種または同所(胸腔内)接種後、腫瘍径または腫瘍重量および胸水産生量を測定した。さらに、腫瘍組織を用いて免疫組織化学的染色(Ki-67、CD31、VEGFおよびTUNEL)を行った。遺伝子導入株の足場非依存性増殖能および運動能が有意に抑制された。遺伝子導入株を皮下接種したマウスにおいて皮下腫瘍は増大しなかった。遺伝子導入細胞株を胸腔内接種したマウスにおいて、胸水産生量、腫瘍重量ともに親株およびMock株より低かった。また、遺伝子導入株においてTUNEL陽性の細胞が有意に多く、親株およびMock株よりもアポトーシスを起こしやすい事が示唆された。 以上より、MYO18B遺伝子発現回復は悪性胸膜中皮腫に対する有効な治療法になり得る可能性が示唆された。
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