研究課題
基盤研究(C)
ニトロ化をうけた修飾核酸である8ニトログアノシンは発癌や遺伝子変異に関与した核酸損傷の指標として注目されている。私どもは、8ニトログアノシンに対する特異性の高い抗体を世界に先駆けて作成したので、本研究では、ヒトの様々な肺疾患における8ニトログアノシンの生成、局在について解析を行った。免疫組織化学的解析から、肺線維症ではマクロファージや気道上皮の他、特に化生再生上皮の細胞質に本因子の強い陽性所見が認められた。共焦点レーザー顕微鏡による二重染色では、本因子は、iNOS、eNOS、hemoxygenase-1、8ニトロチロシンおよびp53と共局在する所見が得られた。肺癌組織を用いた検討では、癌細胞の細胞質のみならず腫大した核内に本因子の局在を認めた。以上の結果から、過酸化物質のみならず、本因子のようなNOによって生成されるニトロ化化合物が、肺胞上皮の傷害に関わるとともに発癌にも関与する可能性が示唆された。次に高濃度酸素暴露マウス傷害肺やブレオマイシン傷害肺の解析では、傷害された気道や肺胞の上皮とマクロファージに本因子の生成が認められ、ニトロ化化合物の病態形成への関与が示唆された。私どもは、NOにより生成されるニトログアノシン誘導体である8-nitro-cyclic GMPがhemoxygenase-1などの細胞保護酵素を誘導し、細胞内生存シグナルを活性化することを明らかにしており、ニトロ化合物は細胞傷害作用のみならず細胞保護作用を有する可能性が考慮される。8ニトログアノシンは単なる損傷塩基ではなく、高い化学反応性を持つ生理活性物質であり、NOの下流のシグナル伝達分子として、重要な役割を果たすものと考えられる。今後、本因子の細胞傷害作用ならびに細胞保護作用の両面から、更に検討を進めたい。
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