多くの喘息患者の気道壁には病理学的に、基底膜の肥厚・気管支平滑筋の肥大と増生・杯細胞の過形成・新生血管の形成等、気道リモデリングと呼ばれている気道壁組織の再構築が認められる。我々は、既に気管支壁の血管新生に及ぼすvascular endothelial growth factor(VEGF)の生理作用に注目し、その気管支喘息に対する病態生理学的意義について検討してきた。そこで今回の研究では、VEGFが内因性の強力な内皮細胞増殖因子であり、かつ血管透過性物質であるとの観点から、気管支壁内の浮腫の形成のみならず、気道リモデリングの進展とその維持に対して、極めて重要な役割を演じていることを明快に示したのである。特に、喘息の基本病態である気道過敏性の成立における気道微小循環系の関与については、微小循環を介する各種刺激に対する気道収縮増強作用についての詳細なメカニズムを明らかにした。こうして、気管支壁における活発な血管新生と新たに形成された未熟な新生血管の内皮細胞機能異常・過剰な血管透過性亢進能に注目し、気管支喘息の新たな病態メカニズムを新規に構築したのである。このような観点から喘息の病態生理を明らかにするという試みは極めて斬新なものであるとともに、従来の概念では、想定し得なかった新規治療の展開や新しい薬剤の開発の理論的支柱となりうるものである。我々は、種々の血管新生促進因子に対して拮抗的に作用する血管新生抑制因子についても検討を加え、気道内での両因子の不均衡がもたらす精巧な血管新生の調節機序も明らかにすると共に、血管新生促進因子の作用を調節する分子の解析にも努めた。このような検討から血管新生の定量的評価法と共に、新生血管の機能的異常を非侵襲的に定量化する方法も考案し、気道の新生血管という観点からみた喘息の新しい病態生理を確立したのである。さらに、従来の喘息治療薬の気道微小循環系に対する作用の欠如を示し、将来的に求められる喘息薬の薬理作用と気道微小循環系に対して最大限の有効性を考慮したDDS(drug delivery system)についても、考察した。そして、我々の開発した量的・質的血管新生の評価法を通して、新規薬剤の開発への道筋を確かなものとしたのである。
|