研究概要 |
目的:急性肺障害は急峻な呼吸不全により死に至る重篤な病態であり、臨床現場において予防法ならびに治療法の開発は急務である.近年、癌治療薬Gefitinibなど新規治療薬剤の導入に伴い、前臨床や臨床治験段階では予想しえなかった急性肺障害が報告されている.一方、特発性間質性肺炎では古くから「急性増悪」の病態が知られ、日本では欧米諸国に比べて明らかに頻度の高い病態であることが判明してきている.こうした共通の病態から、日本人に発生しやすい急性肺障害の病態と薬剤性肺障害の背景にある共通の発生機序を見極めることが本研究の目的である. 方法:放射線肺障害誘発肺線維化マウスモデルを用いて、肺障害の結果誘導される肺胞上皮細胞の再生過程を検討した.肺線維症のできやすいマウス系、C57BL/6を用いて病理学的、生化学的比較を行い、細胞分子病態の違いを検討した.また、EGFR tyrocine kinase阻害薬であるGefitinibを20,90,200mg/kg、5日間連日経口投与し、肺線維症の程度を比較した. 結果:放射線照射(12Gy一回照射)により5ヶ月後のマウス肺に線維化が生じ、またGefitinib投与群では線維化の軽快傾向が認められたが、collagen量の有意な抑制効果は認められず、一方増悪する傾向もなかった.組織増殖再生の指標であるPCNA染色では、放射線照射により染色比率が増加し、Gefitinib投与により抑制された.蛋白レベルでEGFR発現量ならびにそのリン酸化はGefitinib投与により抑制された. まとめ:以上の結果からGefitinibは放射線照射誘発肺線維症モデルにおいて上皮再生を阻害することなく、EGFR発現を抑制して線維化を抑制する傾向にあった.臨床への外装は慎重を要するが、Gefitinibが放射線肺障害を一概に助長するとは言えない.
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