本研究では、難治癌の代表であり、且つ増加傾向にある肺癌の治療成績向上を目指した新しいアプローチとして、最近臨床導入された上皮成長因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼの選択的阻害剤ゲフィチニブと、アラキドン酸代謝のシグナル伝達経路の触媒酵素であるシクロオキシゲナーゼ(COX)2阻害剤との併用効果について臨床応用を目的として検討した。EGFR遺伝子変異とゲフィチニブの肺がんに対する感受性との関連性についての前向き研究では、非小細胞肺がん例を対象として、インフォームドコンセント取得後に診断目的にて採取された検体を用いて、ATP結合領域のEGFR遺伝子変異について検討した。exon19の欠失についてはfragment analysisで、exon21の点突然変異についてはcycleave PCR法を用いて検索した。その結果に基づき、EGFR遺伝子変異症例に対してゲフィチニブの投与を行い、効果はRECIST法により判定した。この前向き研究により、非小細胞肺がん例66例で検討した結果、27例でEGFR遺伝子変異が認められた。10例でexon19の欠失が、17例でexon21の点突然変異(L858R)が認められた。EGFR遺伝子変異症例のうち21例でゲフィチニブ投与を行い、21人中19人が奏効し(CR3人、PR16人)、奏効率は90%と高い感受性を示した。有害事象として皮膚障害、下痢、肝機能障害が認められたが、肺障害の症例はなく、EGFR遺伝子変異とゲフィチニブ感受性との間に強い関連性が認められた。ゲフィチニブとCOX2阻害剤との併用に関して、EGFR遺伝子変異とCOX2阻害剤との併用効果について検討し治療の個別化を考慮する事が、治療戦略上重要であると考えられ、治療成績の向上に結びつくものと期待される。
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