難治癌で増加傾向にある肺癌の治療成績向上を目指した新しいアプローチとして、最近臨床導入された上皮成長因子受容体チロシンキナーゼの選択的阻害剤ゲフィチニブと、アラキドン酸代謝のシグナル伝達経路の触媒酵素であるシクロオキシゲナーゼ2阻害剤の臨床での有効な応用を目的として検討した。上皮成長因子受容体遺伝子変異検索法法は、小検体のパラフィン切片から感度が高く、迅速に(4時間)結果判定可能な測定法を確立し、変異結果に基づき上皮成長因子受容体阻害剤ゲフィチニブを投与した。9割の症例で奏効が得られ無増悪生存期間中央値は7.7ヶ月を示した。変異部位による検討では、エクソン19欠失症例の無増悪生存期間中央値は7.8ヶ月、L858R点突然変異症例は6.0ヶ月を示した。ゲフィチニブに効果を示し、後に耐性化した症例の検討では、コドン790のスレオニンからメチオニンへの変異(T790M)が存在し、二次的遺伝子変異を獲得していた。T790M獲得症例は女性、非喫煙者、遺伝子欠失症例で多かったが、ゲフィチニブ投与期間との関連はなく、半数症例の耐性化には遺伝子変異獲得以外の要因の関与が示唆された。一方、シクロオキシゲナーゼ阻害剤により肺癌細胞の増殖抑制効果が得られ、ゲフィチニブとシクロオキシゲナーゼ阻害剤との併用に関して併用増強効果が観察された。シクロオキシゲナーゼと上皮成長因子受容体との関連について、プロスタグランジンE_2が、リガンドとしての上皮成長因子の関与無く上皮成長因子受容体を刺激できること、一方、上皮成長因子はシクロオキシゲナーゼの発現を増強することが示されており、ゲフィチニブとシクロオキシゲナーゼ2阻害剤との併用は、治療の個別化も含め、治療戦略上重要であると考えられた。
|