研究概要 |
慢性腎不全患者では貧血(腎性貧血)の合併が問題となる。本研究は腎性貧血においてエリスロポイエチン(EPO)の遺伝子治療の可能性を検討するため、まず、慢性腎不全モデルラットにおいて貧血の機序を再評価し、次に、その結果に基づき、EPOの遺伝子発現を正に調節する転写因子HIF-1α(Hypoxia inducible factor-1α)などによる遺伝子治療を試みる。本研究の初年度である2005年度は、主に第一段階の慢性腎不全での貧血機序の再評価を行った。瀉血モデルをコントロールとして慢性腎不全モデルラットを解析した結果、慢性腎不全での腎ではEPO産生の低下が確認される一方、肝臟では有意なEPO産生の増加が認められた。そこで腎・肝ともにHIF-1αをはじめとするEPO産生の転写因子を検討したところ、腎では転写因子の発現低下が確認され、腎不全に伴い、全体的に貧血に対応する機能が低下していることが判明した。逆に、肝臓では正の転写因子(HIF-1α、HIF-2α)の増加と負の転写因子(PHD-2,pVHL)の低下が伴に認められ、調整的EPO産生亢進状態が判明した。また、EPO遺伝子治療の限界を認識する目的で、EPO産生障害以外の貧血の機序として腎での鉄代謝異常の有無も検討した。その結果、近位・遠位尿細管の鉄トランスポーターとその制御蛋白(ヘプシジン)の腎内発現障害が判明し、腎性貧血の機序が複合性も明らかになった。以上の結果は日本および、アメリカ腎臓学会で報告し、現在論文投稿中である。これらの結果に基づき、次年度(2006年度)は全体的に機能が低下した腎臓ではなく、調節的機能を保存する肝臟をターゲットとした遺伝子治療を試みる。
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