昨年度の成果をさらに発展させるために、樹立したモデルマウスに糸球体病変を惹起した。 Nephrin-CreマウスとROSA26マウスを交配したマウスに、さらにp21欠損マウスを交配して、抗基底膜抗体腎炎を惹起したところ、糸球体周囲に著明な上皮増殖を認める糸球体を散在性に得た。この上皮細胞に形質を調べるため、LacZ染色、WT1、synaptopodinなどのpodocyteマーカーおよびBrdUのとりこみについて検討した。上皮増殖は、ほとんど例外なくLacZ陰性、WT1陰性であり、LacZ陽性細胞にはWT1は陽性であった。すなわち、本モデルで増殖する細胞は、これまでの報告と異なり、ボウマン嚢上皮細胞であることが確認された。さらに、LacZ+/WT1-細胞やLacZ+/synaptopodin-細胞はみられないことから、podocyte脱分化は起きていない可能性が高い。 Podocyteの可塑性については、基礎実験を行っている段階である。神経幹細胞のマーカーとして確立されているnestinがpodocyteに発現することが知られている。Nestinの糸球体内分布を検討した結果、細胞体に分布しactinとは相互関連が薄いことが分かった。さらにnestinはvimentinと共存し、siRNAによりvimentinをknock downするとnestinは重合しないこと、nestinをknock downするとvimentinは変化しないが、突起形成が抑制されることから、幹細胞マーカーnestinはvimentinと重合して、podocyteの突起形成に関与することが明らかになった。このnestinの機能がpodocyteの再生あるいは可塑性にいかなる意義を持つのかについては、今後の検討が必要である。また、脱分化podocyteをin vivoで得て、再分化誘導を試みることは、現在基礎検討中であり継続的に実験を行う予定である。
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