研究概要 |
免疫異常を呈するflaky skin (fsn)ホモ変異マウスは,糸球体腎炎を呈するほか,ヒト乾癬に類似した皮膚炎を呈することが報告されており・新たなヒト腎症関連モデルマウスとなりうることが期待される.また,本マウスが呈する乾癬およびIgE高値は,ヘルパーT細胞のTh1型及びTh2型それぞれの表現型であり,ヒト腎炎でも,Th1/Th2の表現型が論じられているが,しばしば両者の混在が認められることからも,fsnマウスの解析は新たな知見が得られる可能性が高い.このマウスと研究代表者が作製したTh1/Th2制御関連転写因子を過剰発現するトランスジェニックマウス(Th1,VA-T-betマウス;Th2,VA-GATA-3マウス)とを掛け合わせ,腎炎の病態に変化が生じるか否かを検討した.平成18年度において,以下の研究結果を得た.1)生存率:fsnマウスの本施設での平均寿命は14.5週(n=36)であり、fsn-VA-T-bet 10.0w(n=7)、fsn-VA-GATA-3 10.8w(n=7)と両者とも短縮しているが、T-bet群とGATA-3群間では大きな変化が認められなかった。2)腎炎解析:fsnマウスの腎機能評価では8週、12週の血清クレアチン値(mg/dl)は,wildマウスと比べて有意な差を認めなかった(8週、fsn:0.3±0.038 n=7.WT:0.34±0.037 n=7;12週fsn:0.283±0.017 n=6.WT:0.317±0.098 n=6)。fsn-VA-T-betマウス、fsn-VA-GATA-3マウスの腎機能評価では8週の血清クレアチニン値が、fsn-VA-T-bet:0.18±0.045 n=5、fsn-VA-GATA-3:0.2±0.071 n=5、12週の血清クレアチニン値がfsn-VA-Tbet:0.2±0.082 n=5、fsn-VA-GATA-3:0.15±0.071 n=5で、wildマウスと比べて血清クレアチニンは低値であった。しかし,体が小さく筋肉量が少ないため血清クレアチニン値が低値を示したと思われるマウスが多く,正確な腎機能評価にはクレアチニンクリアランスの評価が必要と考えられる。尿蛋白(mg/day)は8週でfsn-VA-T-bet:2.476±3.218 n=3、fsn-VA-GATA-3:0.898±0.249 n=5)、12週で(fsn-VA-T-bet:7.539±0.759 n=2、fsn-VA-GATA-3:0.558 n=1とfsn-VA-Tbetマウスで高値を示しており、腎炎の悪化が示唆された。現時点ではn数が少ないため、今後観察個体数を増やすと同時にfsnマウスの尿蛋白を検討する予定である。3)血清免疫グロブリン測定:fsnマウス(n=5)、およびfsn-VA-T-betマウス(n=9)、fsn-VA-GATA-3マウス(n=7)、wildマウス(n=6)のTh1/Th2バランスを検討するため、血清中の免疫グロブリンを測定した。fsnマウスでは総IgGの産生が亢進しており、IgG2a/IgG1比がwildマウスと比べ低下しており、よりTh2へシフトしていることが分かった。これに対しfsn-VA-T-betマウスでは、IgG2a/IgG1比が上昇しTh1側へサイトカインバランスがシフトし、fsn-VA-GATA-3マウスでは、IgG2a/IgG1比が低下し、Th2側ヘサイトカインバランスがシフトしており,fsnと類似した結果だった.これらより,転写因子の制御によってfsnのTh1/Th2バランスを制御することが可能であることが示された。本年度の研究結果では,評価できたマウスに限りがあり,Th1/Th2制御の可能性については確認できたが,一部評価した個体数が少ないため,今後さらなるデータの蓄積が必要と思われる.
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