免疫異常を呈するflaky skin(fsn)ホモ変異マウスは、糸球体腎炎を呈するほか、ヒト乾癬に類似した皮膚炎を呈することが報告されており、新たなヒト腎症関連モデルマウスとなりうることが期待される。また、本マウスが呈する乾癬およびIgE高値は、ヘルパーT細胞のTh1型及びTh2型それぞれの表現型であり、ヒト腎炎でも、Th1/Th2の表現型が論じられているが、しばしば両者の混在が認められることからも、fsnマウスの解析は新たな知見が得られる可能性が高い。本研究では、fsnマウスの評価の他、このマウスと研究代表者が作製したTh1/Th2制御関連転写因子を過剰発現するトランスジェニックマウス(Th1、VA-T-betマウス;Th2、VA-GATA-3マウス)とを掛け合わせ、腎炎の病態に変化が生じるか否かを検討した。本件研究期間中に以下の点を明らかにした。1.fsnマウスのリンパ球解析では、T細胞の分化異常が認められた。2.腎機能評価において、血清クレアチニン測定では、fsnマウスにT-bet、GATA-3を導入することにより、顕著な改善および増悪を確認することはできなかった。一方、尿蛋白に関しては、T-betの導入により、軽減している可能性が示されたが、検体数が少数のため、データのさらなる蓄積が必要であった。3.Th1/Th2のサブセット解析では、fsnマウスはTh2優位の免疫状態にあった。4.T-betやGATA-3の導入により、Th1/Th2の誘導が確認できた。VA-GATA-3 fsnマウスとfsnマウスのTh1/Th2サブセット結果が同程度であったこと、VA-T-bet fsnマウスにてTh1優位な結果を示したことから、fsn自体には、より強いTh2誘導の活性は無いと考えられる。5.Th1/Th2のシフトに係らず、fsnマウスの寿命の延長効果は認められなかった。このことからfsnマウスの寿命には、Th1/Th2はあまり関与せず、免疫疾患以外の要因、おそらくは造血異常により規定されている可能性が示唆された。本研究期間2年間においては、解析が一部に止まったものもあるが、前記の幾つかの新たな知見を確認することができた。今後の課題として、Th1/Th2バランスとfsnマウスで認められる疾患病態との関連、特に皮膚病変、糸球体腎炎との発症時期、程度など病態を中心に、より具体的に検証していく必要があると考えられる。また、造血異常が直接の死因であると予想されるため、コロニーアッセイや造血サイトカインに対する反応性の解析も病態解明につながるものと思われる。
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