研究概要 |
1.尿細管上皮細胞における脂質親和性転写因子の発現に対する炎症、低酸素の影響 培養ヒト近位尿細管上皮細胞(HPTEC)において、CDNAアレイ解析により、正常ならびに低酸素下の脂質親和性転写因子(PPAR-α,β,γ、RXR-α,β、RAR-α,β、FXR)の発現量を検討した。正常酸素下では、すべての遺伝子に有意な発現を認めたが、相対的な発現量は、PPAR-αを1とするとRXRが最大で10.1倍、FXRは5.4倍、PPAR-γは2.1倍であった。次に、低酸素下での脂質親和性転写因子の発現を正常酸素下と比較したところ、PPAR-αは約20%減少し、PPAR-γは約70%減少し、RXR-αは約30%減少していた。FXRの発現には著変を認めなかった。 さらに、HPTECにおいて、定常状態、TNF-α刺激、低酸素刺激でPPAR-γの発現がどのように変化するかを検討した。正常酸素下24時間後に比較して、低酸素下24時間後には、PPAR-γのmRNAは57%減少し、48時間後には80%減少した。一方、正常酸素下48時間後では、PPAR-γのmRNA量はほぼ不変であった。TNF-α刺激では、非刺激と比較してPPAR-γのmRNA量は24時間後、48時間後で変化しなかった。イムノブロット法でPPAR-γ蛋白量を解析したところ、正常酸素の対照に比して、低酸素下では、その発現量は24時間後に20%減少、48時間後に30%減少した。TNF-α刺激では、非刺激と比較してPPAR-γの蛋白量に24時間後で変化はなかった。 2.脂肪酸結合蛋白の発現に対する低酸素の影響 肝型脂肪酸結合蛋白のmRNA発現については、正常酸素の対照に比して、低酸素刺激では、その発現量は48時間後に3.4倍に増加した。 3.PPAR-γ活性化薬のPPAR-γ依存性の転写活性亢進作用とMCP-1、PAI-1発現への影響 培養ヒト近位尿細管上皮細胞(HPTEC)においては、十分量のPPAR-γ蛋白発現が検出され、PPAR-γ活性化薬のPGJ2(5μM)はPPRE-lucプラスミドの転写活性を約3倍に亢進させた。PGJ2とpioglitazoneは正常酸素下、TNF-α刺激下のMCP-1発現を減少させ、この作用のそれぞれ約30%と80-100%がPPAR-γ依存性であった。また、PGJ2は、低酸素下、TNF-α刺激下のPAI-1発現を増強し、この作用はPPAR-γ非依存性であった。Pioglitazoneは、PAI-1発現に有意な影響を与えなかった。PGJ2のPAI-1発現増強作用は、PD98059、genisteinで抑制されたため、MAPKキナーゼとチロシンキナーゼの活性化を介するものと推測された。PGJ2、pioglitazoneのMCP-1発現抑制作用は、低酸素下では減弱する一方で、PGJ2のPAI-1発現増強作用は、低酸素下でさらに亢進した。この多様性はPGJ2のPPAR-γ非依存性の作用が一因であると考えられた。
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