RNAi(RNA interference)は、細胞に導入された二本鎖RNAが相補配列を持つ標的遺伝子の発現を抑制する現象である。インターフェロン応答のため、長らく哺乳動物の系にRNAiが応用されることはなかったが、short interfering RNA(siRNA)により哺乳動物細胞でもRNAiが観察されることが報告され、RNAiを用いた研究が飛躍的に波及した。RNAiを用いた進行性腎障害に対する治療を考慮した場合、作用期間が一つのポイントとなる。合成siRNAとsiRNA発現ベクターの発現量・作用期間を比較したところ、遺伝子発現抑制効果に差は見られなかったが、合成siRNAに比べて、発現ベクターの方がsiRNA量は微量であり、作用期間も短い傾向にあった。また、siRNA発現ベクターに比べて、siRNAのほうが、インターフェロン反応などの副次的な反応が少ないことも考えられ、むしろ、siRNAのほうが有用であることが示唆された。siRNAの分解抑制もまた慢性腎障害に対する効果持続につながる。EGFPトランスジェニックラットを用いて、EGFPに対するsiRNAの効果を検討したところ、siRNAの遺伝子抑制効果は、糸球体では2週間程度しかないが、筋肉では90日以上持続する。これは、siRNAの分解酵素と考えられているeri-1が、神経や腎糸球体では発現が強く、筋肉では弱いためであると考えられる。ヌクレアーゼに耐性を有するsiRNAも開発され、化学修飾を施したsiRNAでは、進行性腎障害モデル(片腎摘Thy-1モデル)でも効果的であり、蛋白尿や腎障害の進展を抑制することを確認した。
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