研究概要 |
我々は、進行性腎障害共通の分子メカニズムを明らかにするために、5/6腎臓摘出ICRマウスの腎肥大期において発現の上昇する遺伝子のスクリーニングを行った(Zhang H et al. Kidney Int 56(2),549-558,1999)。得られた遺伝子のうちNX-17は様々な臓器のノーザン解析から、腎臓特異的に発現することが明らかとなった。この遺伝子の全長のcoding sequenceをマウス、ヒト、ラットにおいてクローニングしたところ、まったく新規の遺伝子であることが判明した。その遺伝子産物は222アミノ酸残基からなり、N末端にシグナルペプチドと膜ドメインを有する膜蛋白である。In situ hybridizationやポリクローナル抗体による免疫染色の結果、腎皮質部及び髄質部の集合管特異的に発現することが判明した。そこで我々はこの新規膜蛋白をcollectrinと命名し報告した(Zhang H et al. J Biol Chem 276(20),17132-17139,2001)。Collectrinが高血圧発症に関与していると考える根拠は2つある。まず高血圧を発症するSHR rats, SHRSP rats, Sabra salt-sensitive animalの高血圧発症に関与する部位はまさしくACE2とcollecrinが隣接して存在する領域にある。これらの動物では食塩負荷にともなうACE2遺伝子発現の上昇が抑制されているが、ヒトの遺伝子解析では高血圧とACE2遺伝子多型との明らかな関連はないと報告されている。従ってcollectrinも同様に重要な高血圧発症の候補遺伝子である。またcollectrinの結合蛋白の候補であるsnapinはSNARE(soluble N-ethylmaleimide-sensitive-factor attachment protein receptor)複合体にSNAP-23を介して結合する蛋白で、小胞体と細胞膜の融合に関与しており、種々の分泌蛋白の開口分泌と膜タンパクの膜上への表出に関与している。よってcollectrinとsnapinを介した相互作用は集合管におけるイオンチャンネルや水トランスポーターの膜上への発現に関与しており、collectrinの発現低下や遺伝子異常が高血圧に関与していると推測される。
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