慢性腎臓病患者に充分なインフォームド・コンセントのもと、承諾書を得て本研究に参加してもらい、定期的な血液サンプルの提供を受け、血漿中の酸化ストレスの定量(チオバルビツール酸反応物;TBARS)と白血球からQiagen社製のPAXgene Blood RNA Systemを用いてmRNAを抽出し、RT-PCR法によってNAD(P)Hオキシダーゼの膜型コンポネントであるp22phox遺伝子の発現を検討した。 血液中の酸化ストレス量は腎機能正常では低く、糸球体濾過量の低下、腎機能障害の進行に従い増加し、特に末期腎不全である血液透析群では著しい上昇を認めた。この上昇は透析膜の性能や透析期間とは関連がなかったが、一回の透析終了後に更に酸化ストレスが惹起されていた。腎不全の進行とともに白血球のNAD(P)Hオキシダーゼのp22phox遺伝子発現も同様に亢進する傾向があり、特に短期間でも透析膜という異物に接触することでp22phox遺伝子発現が亢進していた。一方、透析患者の体外循環でもLDLコレステロール吸着療法を行うと、酸化ストレスは低下し、白血球のp22phox遺伝子発現も抑制された。また、安定した透析患者でも正常ボランティアに比して、抗心筋自己抗体の陽性者頻度が上昇しており、有意に心機能の低下や動脈硬化が促進されていた。このことが、慢性腎臓病が進行することによって心血管イベントの発症が増加することにつながっている可能性が示唆された。 本研究の結論として、慢性腎臓病は尿毒症や透析という刺激で血管内の酸化ストレスを白血球の酸化ストレスを誘導するp22phoxの遺伝子発現を増強することによって心血管障害を引き起こしている可能性があり、LDLコレステロール吸着療法などの抗酸化療法は血管病変を改善させる可能性が示唆された。
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