我々は日本という比較的均一な人種内でも末期腎不全(ESRD)の発症率に顕著な地域差が存在し、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)消費量の地域差と逆相関することを報告した。そこで、日本透析学会統計調査委員会が毎年公表している県別年間新規透析導入患者数を元に1983年から1988年の11地域別年間平均ESRD発症率(人口100万人当たり)を原疾患別(多発性嚢胞腎;PKD、糖尿病性腎症;DMN、慢性糸球体腎炎;CGN)に算出した。DMNとCGNに基づくESRD発症率には共に有意な地域差が存在(p<0.0015およびp<0.0001by ANOVA)した。しかし、PKDに基づくESRD発症率には地域差を認めなかった(p=0.6)。さらに、DMNとCGNに基づくESRD発症率の間には強い正の相関(r=0.82、p=0.002)を認めたのに対し、PKDとDMN、あるいはPKDとCGNに基づくESRD発症率には有意な相関を認めなかった(r=0.04、p=0.9およびr=0.3、p=0.4)。このことから我が国の遺伝的背景はやはりほぼ均一であり、原疾患の発症に地域差があるのではなく、腎不全の進行速度に地域差が存在している可能性が示唆された。続いて、我が国にACEIが普及する前の1982年から1986年までをACEI登場前5年、普及後の1996年から2000年をACEI登場後5年とし、各々につき11地域別の年間平均ESRD発症率を算出した結果、各地域ともESRD発症率は増加しているが、一様に増加しているのではなく地域差のパターンが変化していた。二元配置分散分析では、地域と時間経過の間に明らかな交互作用が見られ、ESRDの地域差がACEI登場前後で変遷していた。このことからACEIが腎不全進行抑制に有効に作用していることが示唆された。
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