研究概要 |
(1)in vitroでの研究 a)ラット近位尿細管上皮細胞株(NRK-52E)を用いた検討:NRK-52E細胞にTGF-β 10ng/mlを添加することにより、epithelial-mesenchymal transition (EMT)を誘導した。TGF-βの添加により、NRK-52E細胞におけるE-cadherinの発現は低下し、逆にα-smooth muscle actin (α-SMA)の発現は上昇した。一方、活性型ビタミンD(1,25(OH)_2D_3)10^<-7>Mは、NRK-52E細胞におけるE-cadherinの発現を増加させると共にα-SMAの発現を抑制した。また、1,25(OH)_2D_3は、TGF-βによるE-cadherinの発現抑制およびα-SMAの発現促進作用に拮抗した。したがって、活性化型ビタミンDは、尿細管細胞のEMTを阻害することにより、腎間質線維化の進展を抑制する可能性が示唆された。 b)ヒト近位尿細管上皮細胞株(HK-2)を用いた検討:HK-2細胞にTGF-β 1〜10 ng/mlを添加することにより、上皮細胞の分化マーカーであるE-cadherinの発現が抑制された。また、IL-1b 1 ng/mlの添加でもE-cadherinの発現が著明に抑制された。この培養系では、α-SMAの発現レベルが非常に低いため、ウエスタンブロット法ではα-SMAの発現は確認できなかった。1,25(OH)_2D_3は、HK-2細胞におけるE-cadherinの発現を増加させるだけでなく、TGF-βおよびIL-1βの作用を抑制した。したがって、活性型ビタミンDは、尿細管上皮細胞の形質維持に重要な役割を果たしている可能性が示唆された。 (2)in vivoでの研究 a)片側尿管結紮(UUO)モデルによる検討:野生型およびビタミンD受容体(VDR)欠損マウスにUUOを行い、経時的に腎間質の組織学的変化を解析したところ、UUO後7日目で、VDR欠損マウスにおける腎間質へのマクロファージの浸潤が野生型マウスに比して著明に増加していることが免疫組織化学的に明らかにされた。また、腎間質の線維化の程度もVDR欠損マウスにおいて促進される可能性が示された。 b)ネフロトキシン腎炎モデルの作成:SDラット腎糸球体を単離し、ウサギに免疫することによりネフロトキシン(nephrotoxic serum : NTS)の作成を作成し、C57BL6マウスおよびVDR欠損マウスに加速型ネフロトキシン腎炎を誘発した。NTS50〜100μlの3日間連日静注により、半月体形成性糸球体腎炎が両方のマウスにおいて形成されることが確認された。
|