平成17年度は敗血症多臓器不全モデルとしてエンドトキシン(LPS)投与と大腸菌投与によるモデル動物2種を作成し、それぞれについてβ2アドレナリン受容体(β2-AR)の補充療法の効果を検討した。また、β2-AR補充療法はアデノウイルスをベクターにした遺伝子導入法により受容体を補う治療方法であるが、皮下注射単回投与法で充分な量の補充が可能であるかどうかも検討した。 LPS投与による敗血症モデルラットでは、腎臓、肝臓および肺における臓器障害を合併し、循環虚脱やサイトカイン(特にTNF-α)上昇による腎不全への増悪が認められた。この状況においてはβ2-AR数の減少とその伝達系を担うProtein kinase A-cAMP系の抑制が認められたが、β2-ARの補充により腎不全への進展を回避できた。このことから、敗血症の腎臓障害に対する防御機構としてβ2-ARからの細胞内伝達系各因子の重要性を確認できた。大腸菌投与による方法では、片側腎臓に直接大腸菌を注入することでその後の臓器障害を誘導させることができ、尿路感染症後敗血症のモデルになり得た。このモデルを利用しβ2-AR補充療法が臓器保護に働く作用機序を明らかにするため、生体防御に関与する神経系(α、βアドレナリン受容体の臓器分布)、内分泌系(エンドセリン、アドレノメデュリン、一酸化窒素代謝産物、内因性大麻)、免疫系(マクロファージ貪食能、接着分子)へのβ2-AR補充療法の効果を全身(循環中)と局所(腎)レベルに分け評価した。β2-AR補充療法の投与経路についての検討では、β2-AR遺伝子の単回皮下注射のみで腎臓、肝臓、肺のβ2-ARを充分に増加させることができ、敗血症による致死率の改善にも効果を認め、その有効性を確認した。
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