研究概要 |
本研究の目的は、敗血症に合併した多臓器不全の治療方法としてβ2アドレナリン受容体(β2AR)補充療法の有効性を確立することである。β2AR補充療法とは、アデノウイルスをベクターにした生体内遺伝子導入法によりβ2アドレナリン受容体を一時的に臓器内過剰発現させる方法である。平成18年度は、今迄の実験結果をまとめる作業にも取り組み、その成果を論文にし米国小児研究会誌であるPediatric Resaearchの本年1月号に発表した。研究実験に関しては、敗血症多臓器不全モデルとして腎不全合併モデル動物を新たに利用し、β2AR補充療法の臓器保護機序をさらに解明した。この腎不全合併モデルは、病原性大腸菌を暴露させたラットに腎血管阻血処置を行い作成した。生存率は、病原性大腸菌の暴露群では2日後に25%まで減少したが、β2AR補充療法を加えることにより80%の生存率を確保することができた。また、β2AR補充療法により病原性大腸菌の暴露群に認められた極端な腎臓β2AR数減少は見られず、Gsαやadenylate cyclase, PKA, cAMP活性は維持されていた。このことから、β2AR補充療法による腎機能保護の細胞内伝達機序にはProtein kinase A-cAMP系が重要な役割を担うことが示唆された。一方、β2AR補充療法によって神経系(アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミン)、内分泌系(アンジオテンシンII、エンドセリン、アドレノメデュリン、一酸化窒素代謝産物、内因性大麻)、免疫系(マクロファージ貪食能、接着分子、サイトカイン産生)は、過剰な亢進や抑制反応を示さないことから、β2AR補充療法による臓器保護機序には、サイトカインを中心とする全般的なメデイエーターの調節作用や、生体の恒常性を維持しようと努める神経、免疫、内分泌の生体防御システムの安定化作用が関与していると結論した。
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