研究概要 |
本年度は、β2アドレナリン受容体(β_2AR)補充療法の治療効果として各敗血症モデル動物での生存率への影響と、自然免疫系に与える作用機序を解明し、安全性の確認のために血液尿生化学データと組織所見を検討した。これらの結果から、β_2AR補充療法が敗血症に合併する臓器不全、特に腎障害に対して保護作用のあることを証明し、さらに安全に使用できることを動物実験において確認した。 1.生存率の評価と臓器機能(肺、腎、肝臓)への作用。 原疾患が、腹膜炎、尿路感染症の敗血症、臓器不全進展モデル動物を利用し、β_2AR補充療法による各々の臓器機能と病理所見への影響を検討した。その結果、β_2AR補充療法は好中球の組織浸潤には作用しなかったが、腎機能を著しく改善させ生存率(Kaplan-Meier法)は上昇した。 2.自然免疫系に与える作用機序 (1)組織病理による評価。腎臓、肝、肺の臓器内への顆粒球の浸潤、単核球/マクロファージ(ED-1とPCNA)をスコアー化し評価したが、β_2AR補充療法による作用は認めなかった。 (2)臓器内マクロファージ機能の測定。敗血症状態下での腎臓、肝、肺のマクロファージの活性化状態をCD40,CD80,CD86の細胞表面発現で評価(Flow cytometry)し、また蛍光ビーズで貪食能を評価した。β_2AR補充療法には、マクロファージ活性化状態を調節する効果は無いものの、敗血症に見られる貧食能の一過姓の低下を抑制する作用を示した。 (3)細胞内情報伝達系の評価 β2AR補充療法によって活性化されるβ_2AR-cAMP-PKA系がToll様受容体(TLR)伝達系を構成するCD40とTLR-4に作用し、その結果として腎臓、肝、肺の炎症性サイトカイン産生が抑制された。 3.安全性評価 β_2AR補充療法はアデノウイルスを利用した遺伝子導入治療であるが、血液生化学検査および組織学検査において、使用ウイルスによる炎症所見は認めなかった。
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