研究概要 |
我々は昨年度までに、腎臓特異的メグシンセリンプロテアーゼインヒビター(セルピン)であるメグシンを高発現させたラットが、腎不全を伴う腎セルピノパシー(セルピンが細胞内に重合・蓄積することで生じる疾患で、conformational diseaseの一つ)を呈すること明らかにし、その病態に小胞体機能障害(小胞体ストレス)が関与することを明らかにした。 そこで本年度は、代表的腎疾患モデルラット(糖尿病性腎症、糸球体腎炎、ネフローゼ、高血圧性腎症、急性腎不全、慢性腎不全)を用いて、各種腎疾患における小胞体ストレスの関与、ひいては腎疾患における小胞体ストレスの病態生理学的意義を網羅的に解析した。その結果、1)糸球体腎炎(Thy-1腎炎)、ネフローゼ(PAN腎症)、進行性糖尿病性腎症(高血圧を伴う:SHR/nd)モデルにおいて、病変部(主に糸球体足細胞や尿細管上皮細胞)に小胞体ストレスが誘導(小胞体ストレス応答性シャペロンGRP78,ORP150の発現亢進)されること、2)急性腎不全モデルでは、虚血時に尿細管上皮細胞において恒常的に発現しているGRP78の発現レベルが一過性に低下すること、3)高血圧性腎症(アンギオテンシンII持続投与)や慢性腎不全(5/6腎摘)モデルでは有意な小胞体ストレスの亢進を認めないこと、4)糸球体腎炎(Thy-1腎炎)や急性腎不全(虚血再灌流)誘導前に、小胞体ストレスを軽度に惹起(0.3mg/Kgツニカマイシン前処理)しておくと、病態形成、並びに腎機能障害が著しく軽減すること、などを明らかにした。 以上、各種腎疾患においてその病変部で小胞体機能異常(小胞体ストレス)が誘導され、病態形成に関与すること、小胞体ストレスを軽減することで病態の一部が改善することが示された。これらの事実から、小胞体ストレスは新しい腎病因論、ひいては新しい腎疾患治療概念であることが示唆された。
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