研究概要 |
(目的)kynurenic acid (KYN)は内因性の興奮性アミノ酸(EAA)拮抗物質であり、kynurenine aminotransferase-1(KAT-1)はkynurenineからKYNへの変換酵素である。KAT-1遺伝子はメタボリックシンドロームのモデルである高血圧自然発症ラット(SHR)において、ミスセンス変異を起こし、KAT-1活性を延髄等にて低下させ、同遺伝子はインスリン抵抗性を伴う高血圧関連遺伝子とされている。一方、我々はSHRにおいて両側吻側延髄腹外側野(RVLM)へのKYNへの投与が降圧反応を呈し、RVLMへのEAA作動性入力の不均衡が、同ラットの高血圧発症機序に関与している事を報告している。これらの事は、RVLMのKAT-1活性の低下が、EAA作動性入力を亢進させ入力不均衡を起こし、高血圧発症機序に関与している可能性を示唆する。以上の事より、今回Wistar-Kyotoラット(WKY)のwild type KAT-1遺伝子をSHRのRVLMへ導入する事により、血行動態やインスリン抵抗性さらに交感神経活動に与える影響を検討した。方法)雄性SHRにテレメトリーシステムを挿入し、麻酔下に両側RVLMにWKYのwild type KAT-1遺伝子を含む組み換えアデノウイルス(AdKAT-1)とLacZ遺伝子を含むAdLacZを微量注入した。一部のラットには、術後7-8日に尿中カテコラミン測定、Insulin tolerance test及びRVLMへのKYN投与による降圧反応を検討した。また別群では、KAT-1mRNAの発現を導入後7,14日目に確認した。結果)1)導入後、AdKAT-1群においてのみKAT-1mRNAの発現の増加を認め、それに伴いAdKAT-1群にては、血圧は7日目より有意に低下し、その反応は21日目まで持続した。自由行動下の交感神経活動も同様に低下した。一方AdLacZ群にては、有意な血圧及び交感神経活動の変化は認めなかった。2)尿中カテコラミンは、AdKAT-1群にて有意な低下を認めた。3)RVLMへのKYNの投与による降圧反応は、AdKAT-1群にて有意に減弱していた。4)AdKAT-1群にてインスリン抵抗性の改善傾向を認めた。考察)SHRのRVLMへのKAT-1遺伝子の導入により、交感神経活動亢進は抑制され、血圧低下とインスリン抵抗性の改善傾向を認めた。以上より、メタボリックシンドロームにおけるインスリン抵抗性と高血圧の発症機序に、KAT-1遺伝子のミスセンス変異が関与している可能性が示唆された。
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