研究概要 |
傍腫瘍性神経症候群(PNS)は担癌患者の一部に生じる特異な神経障害であり、悪性腫瘍が検出不能な早期に亜急性経過で極めて高度の神経障害を生じるものである。本症は悪性腫瘍患者の1%前後に生じるとされるが、本症を発症する宿主側の要因については全くわかっていない。PNSの病態は,腫瘍が通常神経組織のみに発現されている自己抗原を表出することにより,腫瘍免疫が神経組織および交差抗原を持つ腫瘍組織を傷害することであるが,同じ組織形を持つ症例でも発症する症例は限られる。このことからは,何らかの宿主要因があることが推測されるが,我々はその要因として末梢免疫寛容の低下を考え,それを検証するために,リンパ球サブセット解析ならびにTregを多く含むCD4^+CD25^<high>CD62L^<high>分画において機能遺伝子発現の評価を試行した。肺小細胞癌(SCLC)を伴うLEMS患者(LEMS群)5名,SCLCを背景に持つ抗Hu抗体陽性PNS(Hu群)2名,乳癌を背景に持っ抗Yo抗体陽性PNS(Yo群)3名.,疾患対照群として神経症状のないSCLC患者(SCLC群)4名,および健常者(HC群)22名を解析した。その結果,リンパ球サブセット解析には群間に差異を認めなかったが,遺伝子発現解析では神経症状のない肺小細胞癌症例に比べ、LEMSとHu/Yo-PNS症例で複数のTreg機能遺伝子であるFOXP3,TGF-β1,CTLA-4,GITRのmRNAの発現低下を認めた。PNS多数例で同様の結果を得たことから、PNSでは免疫制御系の低下が存在することが結論づけられた。
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